主人公荒井

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 物語の主人公という人種は、嫌みなほどかっこいい輩が多い。  荒井もそういったタイプの人間だった。  体育館での出来事。  クラスメイトが見守る中、アイツは長めの助走を取る。  視線の先には20段に積まれた跳び箱。  荒井は走り始めるとあっという間に距離を縮め、最後の一歩を高く踏み出し、空中で足を揃える。  ダァン! という小気味いい音が響く中、全員の目に映ったのは、綺麗な弧を描き、跳び箱を越えていく荒井の姿――  マットに着地する鈍い音を聞いて、少し遅れてすげぇ、だのやべぇだの声が上がる。  そうなのだ。彼は所謂スポーツ馬鹿。勉強は出来ないが底抜けに明るい、みんなに人気の野球部のエースなのだ。  アイツを主人公にしたら良いスポーツ小説が書けるだろう。  だが、 「次姫野!」  俺の名前が呼ばれる。  俺は軽く助走を取り、20段の跳び箱の上で一回転して優雅にマットに降り立つ。  口をポカンと開けたみんなに微笑むと、体育館を揺らすような歓声が上がった。  荒井には悪いがここは恋愛小説の舞台。  主人公は、頭脳明晰で何でも出来る、超美形の、この俺だ。
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