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「必ず帰って来る」
何度この夢を見たでしょうか。最愛の人が戦地に赴く姿を、涙を堪えて見送ったあの日。
夢で私との約束を繰り返すあなたの顔が、今はもう思い出せません。時が経つに連れて、優しく光っていた記憶は氷のようにゆっくり溶けてしまいました。
いつまでも色褪せないこの想いだけが私の財産です。
「ずっと待っています」
あの時必死に彼へ叫んだ言葉を私は呟いて、布団から起き上がった。
縁側でぼうっとする毎日。
どれほどの月日を1人で過ごしただろうか。
頭髪はすっかり白くなった。 それでも私は夢を見る。
楽しかった、幸せだった日々を思い出す。
「あの……大丈夫ですか?」
涙が頬を伝っていた。慌てて拭い、庭先の客人に微笑む。
「ありがとう大丈夫。それよりどなた?」
「――さんですよね?」
私の名前だ。頷く。
「家を整理したらこれが出て来たんです」
差し出された封筒は確かに私宛てになっている。
裏には最愛の人の名前。
震える手で封筒を開けると、忘れかけていたあの人がセピア色で笑っていた。
思わず胸に抱き寄せる。
「お帰りなさい」
私が何十年も言いたかった言葉だった。
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