指先の蟻

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窓の桟を、小さなパン屑を持った蟻が歩いている。 指で大きな陰を作ると、チョロチョロ後戻りする。 夏、蟻を見るとつい、してしまうささやかな遊び。 ああ、生きているんだなあ、 頑張っているんだなあ あたしも頑張らなきゃ! 蟻一匹に生きる力を貰う。 一匹の蟻にはそう思う。 けれど、甘いケーキに群がったたくさんの蟻たちは? 水道の下にお皿ごと持って行く自分がいる。 食べないなら冷蔵庫にサッサと入れろよ!と人間への気持ちまで荒くなる。 あたしだけだろうな。 夏の虫たちは本当に忙しく賑やかだ。 暑くむさ苦しい我慢できない空気の中、薄緑の羽を持った小さな蛾がヒラヒラと飛んでいたり、ゲンゴロウみたいなゴキブリが岩と岩の間をカサカサと暗い所を選びながら歩いているのが見える。 涼しいなあ。 家の中で見たら必ずスリッパを片手に持ち出すだろうに。 ああ、生きてるね。 さめた見方を言えば、険悪な仲の人の頑張れの一言より、そんな小さな虫を見た方が元気になれる。 それが本音だ。 あたしの心は狭いんだろうな。
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