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第十一章 真相
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(食堂・和也視点)
「信じられない」
名奈志さんは、目の前のテーブルに置かれた原稿用紙の山を見つめて呆然としたまま、口だけを動かした。
「今までこの島で起こってきたことが全て書かれてるじゃない!」
かと思うと今度は立ち上がって、皆に同意を求めるように、全員の顔を見渡しながら叫んだ。
しかしすぐに、西涼さんが名奈志さんの意見を訂正する。
「違うな。俺達の方がこの小説と同じ行動をとっていたと言う方が正しい」
言って西涼さんは、卑屈な笑みを浮かべた。誰も何も応えない。
暫く重い沈黙が続いた。
ここは「ポートアーサー」の食堂。僕(和也)を含むあの事件の生存者六名が、テーブルを囲みながら散り散りの席に座って、迎えの船の到着を待っていた。
孝司さんの自殺の後、彼の部屋を調べている時、一つの小説が見つかった。「遺作」という形で読み始めたのだが……。内容は名奈志さんの言った通りである。
「ここに着いてから順番に書いていったんじゃないのか」
俯いていた沢木さんが思いついたように顔を上げ、至極まっとうな意見を述べた。またしても、誰も何も応えない。つまり、誰も沢木さんの意見に同意していないのだ。沢木さん自身でさえも。
この島で起こった出来事と同じ内容の小説。もちろん、後から書いたと考えるのが普通であろう。しかし、内容が全て同じとなれば話は別である。何故ならそこには、作者が知ろうはずもない事実や、他の人物が心で思っていたことなども含まれるのだから。しかも、この文章は全文ワープロで打たれていた。この島にワープロは鳥居と道家のものしかない。しかも、それを使ったにしても、二人が死んだのはかなり後のほう。それから書き出したのではとんでもないペースで書かないと、不可能だ。さらに、第九章に至っては絶対に書くタイミングがない。僕はそのことを言った。
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