第一章 刑務所への招待

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 暫くしてなんとか落ち着いてきたのか、泣き顔をむりやり微笑ませて、知可子が言った。  「……そうね、それなら二人で来なさいよ」  「えっ?」  「そうですね。そしたら遠慮なく伺わせてもらいます」  「えっ? えっ?」  和也の予期せぬ「YES」の返事に、和彦の頭は混乱した。  「伺うということは、ええっと、行くの尊敬語だったかな? いや、謙譲語……? あれっ?」  一人でブツブツ呟く和彦をしり目に知可子は、まだ瞳を潤ませている涙を拭くと、精一杯の元気を出し、  「決まり。それじゃ私、用事があるから。二人とも今日のことは忘れて……。和也君、さよなら。和彦……ちゃんと来てね……」 とだけ言うと、逃げるように帰っていった。  その後も、暫く意味不明の独り言を言って呆然としていた和彦だったが、突然、  「嫌だあぁぁぁぁぁぁぁぁ! 俺は絶対に行かないぞ! 死んでやるうぅぅぅぅ!」 と叫びだした。  しかし、この時すでに和也の心の中には、知可子の誘いであればたとえ兄貴が死のうと何処にでも行ってやる。という固い決心が出来上がりつつあることを、彼は知ろうはずもなかった。  ポートアーサーへ一週間。  女を泣かせておいて、懲役一週間では、刑は軽すぎると言えよう。
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