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義明は垂れた頭をなんとか持ち上げ、再び歩を進める。
しかし、いよいよまぶたも重い。
開けづらい視線の先にはすでにぼんやりと霞がかかり、家の明かりの幻までがちらついている。
「むじなの屋敷か…狸のねぐらか…」
生い茂る太い木々の中に佇む古ぼけ苔むした庵には、見るからに暖かそうに怪しく灯された灯が揺れている。
安堵しつつも余りにも不自然なその明かりに自分が今や世を担う源氏の武者であることを思い出し、刀の柄を握り直し、障子の向こうに声をかける。
「夜分突然申し訳ない、
雨に打たれて難儀している。
小降りになるまでで結構、軒先をお借りできないだろうか。」
音もなく開いた障子の向こうからは、お勤めの最中であったのだろうか、ゆらりと漂う線香の香りと年老いた尼がたたずんでいた。
「まぁ…それは大変でありました。
しかし、ここは御覧の通りの傾いた庵に年老いた尼一人でございます。
ろくなおもてなしもできませんが、よろしければどうぞお上がり下さい。」
柔らかな物腰に促され、中に入ると、小さな仏と二つの位牌が目に入る。
まずは暖かいいろりの火に手を差し出せば、まるで雪解けのような心地がする。
尼の差し出してくれた布で雫を拭うと、息が、血が、ゆっくりと普段の流れを取り戻してきた。
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