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どうやら幻か、それとも何かの妖しかのように現れた灯びは本物であり、今義明の体をすみずみまで甦らせている。 庵は粗末ではあるが掃除も行き届き、いつしか義明の警戒心もほぐれている。 奥は台所であろうか、尼は先程からひっこんだまま顔を出さない。 しばらくすると尼が芋がゆを手に戻ってきた。 湯気の立ち上る器を受け取り口をつけると、そのぬくもりと芋のほのかな甘さに深い溜め息が漏れた。 尼は向かいに座りいろりに薪をくべる。 「こんな粗末なものしか用意できませんで… お恥ずかしい限りでございます。 そのご様子、今をときめく源氏のお武家さまでございましょう?」 「これは世話になっておきながら挨拶が遅れて申し訳ない。 源義明と申す。 主人の使いの途中でこの雨。 どうしたものかとほとほと困っていたところ助かった。 かたじけない。」 「そうでありましたか。 私も今はこうして尼の身で仏におつかえしておりますが、かつては源氏に縁のあった身でございます。 なつかしゅうございます。 どうぞごゆるりとなさりませ。」 尼はそういうと源氏ゆかりの者の位牌であるのか二つの位牌を目を細めて眺めている。 いろりの火が照らすその横顔は懐かしいというよりは、もっと違う別の記憶に思いを馳せているような横顔であった。
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