ウサギでピエロ

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ブーーー… 開演のブザーが鳴る。  千早とわたしが教室に入り、わずか15分ほどで、教室は満員になっていた。観客は、新入生だけじゃない。他の部の先輩たちも自分持ち場を離れ観に来ているようで、後ろに立ち見まで出ている。 「すごい…人気あるんだね…」 千早が、こっそり耳打ちしてくる。わたしは、うなずいた。ほんと…、もっと地味な部だと思ってた。  舞台(とは言えわたしたちがいる所から階段一段ほど高いだけ)に、スポットライトが点される。現れたのは、ピエロ。顔は白く塗られ、鼻先は黒。ゴールドの塗料で大きな星が左目を囲むように描かれている。右目の下にはシルバーの涙。衣装は、すべてモノトーンだ。帽子からはみ出たカーリーヘアもシルバーのような白。 わたしは少し違和感を覚える。ピエロって、もっと派手なもんじゃない?赤とか黄色とかカラフルなイメージ。 劇の内容は、コメディーだった。ピエロが、街の人たちに次々と悪戯をしかけていく。悪戯が成功するたび、客席は大爆笑だ。けれど、劇中の街の人々は憤慨し、ピエロはやがて街のつまはじきに…。終盤、ピエロは人々の前でダンスを踊る。それは不格好でたどたどしく、だけどとっても陽気で微笑ましい。街の人々は大声で笑い、拍手喝采、やがてピエロの悪戯を許してしまう。  ピエロのダンスに客席もやっぱり大爆笑だった。なのに、わたしはちっとも笑えず、むしろ淋しくて切なくて、泣き出してしまいそうだった。 モノトーンのピエロ、世界を色づいたものにしようと、必死のピエロ。 大きな拍手が起こる。劇が終わったのだ。わたしはびっくりして、思わず涙が一筋、頬を伝う。隣で千早が気づき、驚いた顔で「大丈夫?」と聞いた。
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