ウサギでピエロ

10/13
前へ
/89ページ
次へ
「びっくりしたー。彩ってば泣いてるんだもん。」 終演後、隣で千早が呆れた声をあげる。どこに泣きどころがあったんだ…と。 「…いやぁー…」  わたしは、上手い言葉が見つからず、ただただ苦笑い。話をそらそうと、配られたアンケート用紙に視線を落とす。 「…あ…、あのピエロ…ウサギの人だったんだ。」 キャスト欄に名前が書いてある。 【ピエロ…マツミヤ サトル】 「ほんとだー、サトルって呼ばれてたもんね。」  千早もアンケート用紙を覗きこみうなずく。   「はーい、お帰りの方はアンケート書いてってねー!」  突然入口の方から、大きな声が聞こえる。 「ご意見、ご感想、愛の告白、なんでもオッケー!」  声の主は、まさに噂のピエロ。カツラも衣装もとっているのに、メイクはそのままだ。さっきの着ぐるみといい…なんてまぬけな格好。 そんなピエロに、三人の女子生徒が近づいていく。 「すっごいカッコよかったです~!松宮先輩!」 …カッコよかった?あのピエロが?わたしは首をひねる。 「ああ~どうもどうも~ありがとう~」 ピエロは、へらへらと答える。 「あのぉ、わたしたち二年なんですけどぉ、今からでも入部できますかぁ?」 三人の中で、一番派手目な女の子が、ピエロに擦り寄り上目遣いで尋ねる。ピエロはへらへらとした顔のまま一歩うしろに下がり、 「ふーん…」 女の子を頭の先から爪先まで見渡す。女の子はまんざらでもない様子。
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加