デッサン

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中学の頃は、美術の先生が放課後、美術室を解放していてくれたおかげで、好きなだけ描くことができた。団地の狭い自分の部屋じゃ、小さなスケッチブックを広げるだけで精一杯だ。油彩も、お母さんが、絵の具の匂いに馴染めない、と嫌な顔をする。入ろうと思った美術部は、あのとおり漫画部だった。 「あーぁ」  わたしは、もう一度大きくため息をつく。 「お。哲さんのピエロじゃん。」 突然の声に、わたしは驚いて顔をあげる。振り向くとすぐ後ろに、この間の男子生徒が、スケッチブックを覗き込むようにして立っている。 「なっ…なんですかっ!」 声が裏返ってしまった…。わたしは急いでスケッチブックをとじる。 「あれ、閉じちゃうの?…ま、いいや、」 彼はきょろきょろと辺りを見渡す。そして、またわたしの方に向き直し聞いた。 「彼女、いる?」 「は?」わたしは咄嗟に、質問を理解できない。 「彼女だよ、こないだ一緒にいただろ。茶髪のー美人なー」  …ああ、千早のことね。 「部活に行きましたけど。」 「部活?!部活って何部!君ら演劇部入部希望じゃなかったの?!」 …か、顔が近い!
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