デッサン

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「ち…違いますよ!ただ観てただけです!千早は、最初っから希望してたバスケ部に入りましたっ」  わたしは後ずさりしながら答える。 「バスケ部~?!球が顔に当たって怪我でもしたらどぉすんだよ!」 彼は、両手でわしわしと自分の髪の毛をかきむしる。  そんなことわたしに言われても~… 苦悩する彼の横で、ただおろおろするしかないわたし…。周りの生徒もみんな注目している。やがて、ピタリと彼の動きが止まる。 「バスケ部ってことは…体育館だな……よしっ!」 そういうとバタバタと机の間をくぐり、教室を出て行く。ちょうど、その時だ。彼と入れ違いに、見覚えのある顔が教室に入ってきた。 「あ、永太郎~、ヒロインいたー?」 すごい勢いで教室を出ていく彼に、その顔が尋ねている。 あのピエロだ。 「今から体育館行って、口説き落とす!」 答える声はすでに廊下の彼方から、バタバタという足音とともに聞こえていた。  教室中が、一瞬シーンとする。けれど、また新たな来訪者に、みんなざわざわし始めた。 その来訪者は、またしても、わたしのもとに、にこにこと近づいてくる。 …こ、今度はなに? 「こんにちは」 笑顔のまま、彼は言う。なるほど。昨日の女の子たちがキャーキャー言うのも無理はない。メイクを落とした顔は、申し分なく整っている。
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