4/9
755人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
シャッターを下ろして、夕べの不思議な一夜を、古びたこの建物の中に閉じ込めた。 静まり返った早朝の街に、申し訳ないような大きな音が遠慮なしに響き渡る。 海風の混じるキンと冴えた朝の空気に、意識がはっきりする。 「さっみー!」 シャッターに鍵をかけたタケルが、飛び跳ねるように車に駆け寄り、ロックを外した。 「…もういいの?」 助手席側のドアに手をかけながら、きいてみた。 「ん、サンキューな」 タケルは振り返りもせず、車に乗り込んでしまった。 代わりに、建物を眺めた。 水色の澄んだ空に、古いコンクリートのグレーがわりとしっくり溶け込んでいた。 昨夜は気付かなかったが、入り口の上にある、所々割れてしまったネオン管が、店名を形作っていた。 フッ…と、ひとつ溜め息混じりに笑って車に乗り込んだ。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!