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シャッターを下ろして、夕べの不思議な一夜を、古びたこの建物の中に閉じ込めた。
静まり返った早朝の街に、申し訳ないような大きな音が遠慮なしに響き渡る。
海風の混じるキンと冴えた朝の空気に、意識がはっきりする。
「さっみー!」
シャッターに鍵をかけたタケルが、飛び跳ねるように車に駆け寄り、ロックを外した。
「…もういいの?」
助手席側のドアに手をかけながら、きいてみた。
「ん、サンキューな」
タケルは振り返りもせず、車に乗り込んでしまった。
代わりに、建物を眺めた。
水色の澄んだ空に、古いコンクリートのグレーがわりとしっくり溶け込んでいた。
昨夜は気付かなかったが、入り口の上にある、所々割れてしまったネオン管が、店名を形作っていた。
フッ…と、ひとつ溜め息混じりに笑って車に乗り込んだ。
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