6/9
755人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
「なに食う?朝飯」 ハンドルをゆっくり切りながら、車をスタートさせたタケルがきいてきた。 「ファミレスぐらいしか開いてねーんじゃねぇ?」 そう答えながら、ゆっくり夜明けの横須賀の街を眺めた。 部活の朝練なのか、大きなスポーツバッグを担いだジャージ姿の中学生とすれ違った。 その姿は街に溶け込んだ、ごく当たり前の景色のひとつだ。 この街にあったはずの、平凡なタケルの日常なのかもしれない。 運転席のタケルに視線を走らせると、気にとめる風でもなく前だけ見つめていた。 眠いのか、しきりに長めの睫毛をしばたかせ、まばたきを繰り返す。 生あくびをかみ殺す、薄い唇からわずかに見える白い前歯。 顎の線は中学生とは違う。 「……なに?」 視線を感じたのか、タケルが前を向いたままくすぐったそうに唇の端で微笑んだ。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!