『それは球技大会』

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「一目……惚れ」 不思議と、俺はそうかもしれない、と思えていた。 好きとか恋とかではなく。 あの絵画――The angel of White winterと同じようなシチュエーションで初めて見たイヴは、それはそれは美しかった。 そして、その姿がずっと頭から離れない。 これは、一目惚れ……と言えるかもしれない。 ただ、俺がイヴのことを好きかって聞かれたら……分からない。 「一目惚れじゃなくて、単に気になる存在だ、ってのは無いかな?」 「……それは、これから分かるんじゃない?」 涙声もすっかり直り、いつもより大人しい口調の桜花は、また立つ。 「私は、悠樹がイヴに一目惚れしたって確信してる。 これから、悠樹がイヴにどんどん焦がれていくなら……」 背中を向けた桜花は、少し間を開けて、振り向いた。 その顔には、似つかわしくない作り笑顔。 「悠樹は、イヴのことを好きだってことだよ」 「桜、花……」 「じゃあね」 何かに耐え難かったかのように、桜花は走って公園を出ていった。 こんなにも、俺達は昔とは違うのか。 この公園で遊んでいた頃の俺なら、すぐにでも追いかけていたのに。 ――その後の球技大会までの学校に、桜花が来ることはなかった。
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