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夕闇。
街は薄暗く、冷たい夜風が吹き抜ける。
北風が吹く季節になり、日の入りは随分早い。
人通りの殆どなくなった道を彼女は歩いていた。
寂しい空気が彼女を早足にさせる。
彼女の乱れた足音が空間に反響して彼女の耳に戻ってくる。
街灯の明かりだけが彼女の行く先を照らすが、まだらに設置された街灯では彼女の道の一部を照らすことしかしない。
彼女は一心不乱に歩き続けた。
彼女は不意に立ち止まった。そして彼女はゆっくりと後ろを振り返る。
彼女の後ろには彼女の歩いてきた道が音もなくただ横たわっていた。
彼女は再び前を向く。そして歩き出す。
暗い夜道の向こうに明かりが見えてくる。
街灯の明かりよりも大きくて温かい光だった。
彼女は白い息をふうと吐き出すと、その明かりに向かって走り出す。
明かりがだんだん大きくなっていく。
彼女の瞳に自分の家が映る。彼女は自宅のドアノブに手をかけた。
「ただいま!」
彼女はドアを開けて声を上げた。
「おかえり」
彼女の声に家族の声が返って来る。
彼女は靴を脱ぎ、居間に入る。
「はい、寒かったでしょ」
彼女の母親が彼女に肉まんを暖めて待っていた。「ありがとう、ムフフ」
彼女はすっかり冷たくなった手で肉まんを受け取ると、ニッコリ笑って頬張った。
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