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春の日差しは暖かく、清涼な風が心地良く通り過ぎて行く。
街道の両脇には作付け直前の麦畑が広がっている。
その街道から少し離れた所に開墾されていない平地があり、そこには大木が一本だけ大きく枝を広げていた。
ベネクトはその木を背もたれにし、木陰で薄い本を読んでいる。内容はこの街道の先にあるカーネルの町の観光案内で、先刻まで隣にいたライトがそれを横目で見ながら、
「そんなもん、何が楽しいんだ」
呆れた顔をしていた。
そのライトは今ベネクトの逆側、調度日向になっている場所で転寝ている。
「ねえ、ライト君」
本のページを捲りながら大木を挟み反対側にいるライトに声を掛けるが、ライトからの返事は無い。
「ラーイートー君」
やはり返事は返ってこない。
ベネクトは苦笑を浮かべて本を数ページ読み進め、
「起きてるの、分ってるんだよ」
やはり本から目を離す事は無い。
暫くすると「ちっ」と舌打ちする音が聞こえ、ベネクトは口元だけで小さく笑った。
そのまま無視し続ける事も出来たはずなのに、それをしないのが、
(彼の可愛いところ)
なのだと思う。
一方ライトはライトで、
(なんでこのおっさんはいつもいつも……)
戦闘力皆無なのに気配を読む事に長けているのか。
あと洞察力にも優れているようで、戦闘中彼の指示通り動けばまず間違いない。
癪に障るが効率がいいので、
(まあ利用してると思えば腹も立たないか)
そう納得する事にした。
「……で?」
「ん?」
「だから何なんだよ、呼んだからには用事があるんだろうがっ」
口調は荒くなっているが、未だ寝転がり目を瞑ったまま怠そうにしている。
「えーっと、ああ、そうそう」
ごめんごめんと繰り返すベネクトは何処かわざとらしいが、ライトには未だにこの男が本気でやっているのかふざけているのか判断出来ずにいた。
そういうのも込みで胡散臭いし腹も立つ。
「君さ、最近一人で行かなくなったよねーって」
こういう言い方もライトにしてみれば気に食わない。
(だから何だってんだっ)
言いたい事があるのならはっきり言えばいいのに、この男の言う事は一々遠回しで、裏がある事もあれば、全くもって落ちさえ無い事もある。
これもまた読め無い部分の一つだ。
イライラして仕方がない。
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