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携帯電話から聞こえた機械的なアラームの音で目を覚ました。ピッピピ、ピッピピと耳元でうるさく鳴り響く。寝起きの悪い私は携帯電話を投げ出したくなるのを我慢して、すぐにアラームを解除した。 「うるさいなぁ・・もう支度する時間だって分かってるよ」 返事がないと分かっていても、携帯電話に向かって文句を垂れた。一人暮らしを始めてから、ひとり言が多くなったのを感じる。きっと、常にお客さんのことを考えているから、一人きりの時間が欲しくてたまらないのだろう。 ワンルームという狭い空間では、ひとり言を気持ち悪いと言う人は誰もいない。完全なる自由だ。 ベッドから起き上がり、テレビをつける。壁にかかった時計の短針が4と5の間を指していることを確認し、煙草に火をつける。 寝起きに深く煙を吸い込み、体が蝕まれているのを直に感じるのは、嫌いじゃない。 一人暮らし用の小さな冷蔵庫から牛乳を取り出し、マグカップに注ぎ込み、電子レンジで温める。いつの間にか、寝起きにホットミルクを飲む習慣がついていた。温かな牛乳で胃に粘膜を張り、お酒で受けるダメージをふせぐ。熱いものを飲むだけでも頭が冴える。 「嫌な事件」 テレビから聞こえた夕方のニュースでは、冷凍された乳児の遺体が発見されたことをアナウンサーが機械的に知らせていた。 携帯電話を見るとメールが十件程たまっている。その中には、昨日の手紙を渡したお客さんのメールが入っていた。 ――昨日の返事、急がなくてもいいからね。じっくり考えた上で、直接、晶から返事を聞きたい。 こう書かれていた。このメールを読んだだけで、心は疲れを感じる。 このお客さんは、私の演じた姿に惚れているだけで、私自身に惚れているわけではない。本当の私を知らないのに、どうして‘結婚‘という言葉が出てくるのか不思議で仕方がない。 いや、仕事のために演じているということもあるけれども・・ 「朝から病むなぁ」 心の声は我慢出来ずに口から発せられる。それでも切り替えようと、他のメールを確認した。すると、写真添え付けのメールがあった。 ――オツカレちゃん!この間ね、アキラとプリとったぢゃん?それを彼氏に見せて、彼氏の友達も見たんだけど、アキラのことめっちゃ可愛いって言ってて!彼氏いなかったょね?一回、二人で会ってやってくれないかなぁ!あ、この写メ彼氏の友達ね!考えといて!
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