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「では行ってきて下さい。今回はいつもより多めに貰ってきて下さるとありがたいです」
ウィルバーはプルーストにそう言うと、馬車から離れ、荷台は静かに進み始めた。
たった一昼夜の間だけだったが、寝泊まりさせてもらった家とこれでお別れである。
家主であるウィルバーの横を通り過ぎる時、声が聞こえた。
「待ち人に会えることを、願っていますよ」
ガタガタと揺れる荷台の上で、やけにはっきりと聞こえた声に驚き、ウィルバーの方を見る。
相変わらずの笑顔で佇むウィルバーは、馬車が動き出した時から何もしていないかのようだった。
「……………」
ゆっくりと小さくなっていくウィルバーを何となく眺めながら、そろそろ丸く姿を現す太陽を感じ、早朝であることを実感する。
初めて荷台に乗った時もそうだったが、馬を操る技術を持っていない俺には運転を代わることができない。
必然的に運転はプルーストに任せっきりになり、俺は何もせず荷台で揺すられるだけになるという訳だ。
だから、条件としてはバッチリなのである。
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