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「降りてきなさい、あなたの待ってた従兄のお兄さん帰ってきたわよ」
慌てて階下に走った。
玄関に居たのは、そう、あの頃よりはずっと髪が伸びてぼさぼさになって、無精髭も生えてて、少し痩せたあの従兄だった。
「ただいま」
「……ぉかえ…り……」
上手く言葉が紡げない。誰の所為だろう。きっとこの目の前に居る、優しそうなところだけは全然変わらない従兄の所為だと確信している。
「馬鹿」
「え」
「馬鹿馬鹿ばかばか……」
「せっかく帰ってきたのに開口一番がそれ……」
「連絡、したかった」
「うん」
「何年も経ったよ」
「うん」
「どれだけ……」
「うん、待っててくれて、ありがとうね」
涙は嬉しかったから零れているわけじゃないと自分に言い聞かせた。
涙は変わらない従兄に悔しくて零れているんだ。
「淋しくはなかったよ。連絡が取れなくても、僕が帰る場所は此処だって分かっているし、それに……
例え姿が見えなくたって、
この同じ空の下にいたじゃない、僕ら」
微笑みながら夜空を指した、貴方に。何を言ってやろう。
露草の調べは夜風にざわめく
貴方が意味を教えてくれた
あの花と夜露に泣いた
もうそんな夜は来ない
同じ空と月の下 貴方と共に
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