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思い出の中の思い出に縋る
思うことを言葉に出来る力が欲しい
だからどうか間に合って
後悔してからではもう遅い
走れ走れ もっと速く
動きにくい学ランを纏って、ひたすら走っている。
やけに鞄が軽いと思ったら、そういえば教室を飛び出したときに、机に入れていた勉強道具を一式忘れてきたような。
だけど今はそんなことどうだっていい。
ひたすら走って走って。秋の空気はもう乾き始めていて、喉の潤いをどんどん奪っていくけれど。
それどころじゃないんちゃ!
「お願い、やき、間に合ってっちゃ……!」
病院が見えた。俺は俄然速度を上げて走る。
学校に電話をくれた、普段兄ちゃんと呼んでいる叔父が正面玄関で待っていてくれた。
「にいちゃ、……ぁちゃ、は…っ」
息切れの所為で言葉が言葉にならない。それでも兄ちゃんは俺の言いたいことの意味を汲み取ってくれた。
「今は落ち着いてる。とにかく病室に行こう」
「……ん、」
二人で病室のある棟に向かう。個室のドアを開けると、兄ちゃんと一緒に来た姉ちゃんがいた。
「あーちゃんは?」
俺は開口一番姉ちゃんに尋ねた。
「今は寝てるわ。だから大きな声は出しちゃ駄目」
口元に人差し指を突きつけられ、俺は黙ってベッドで眠っているあーちゃんを見た。
あーちゃんは今朝、俺を玄関で見送ってくれた時より一回り小さく見えた。
「縁側で足を滑らせたみたい……私達が丁度家に行っていて気付いたから良かったけれど……」
小声で姉ちゃんは言った。いつも元気な笑顔の姉ちゃんが青ざめているとこっちが心配になってくる。
「脳に異常はないから、しばらくすれば退院出来るって。でも足を酷く痛めてるみたいだから、気をつけないと」
兄ちゃんが言った。それから三人で今後どうするか話をした。兄ちゃん達家族が、こっちに越した方がいいんじゃないかとか。とりあえず俺は部活もしてないし、毎日放課後見舞いに来ることにした。兄ちゃん達は家にしばらく来てくれることになった。
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