数珠玉

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「……拓海、どうしたんね、そんな顔してから」  先に兄ちゃん達が準備で帰ってから少しして、あーちゃんが目を覚ました。 「どうしたんじゃないっちゃ! 学校に兄ちゃんから電話あって、ばっさ心配したっちゃき」 「ごめんねぇ拓海、心配かけてから」 「本当ばい、」 「あーもう、男が泣かんと!」  あーちゃんの皺だらけの手が俺の頭を優しく撫でてくれた。  それがとても温かくて、泣きたくないのに更に涙は溢れた。 「あーちゃんまで俺を置いてかんで……」  普段言わないような本音が口から零れ落ちた。 「置いてかんよ、あーちゃんは拓海を立派に育てんといかん使命がある」 「……っ」 「拓海の喋る言葉聞くと安心するねぇ、お父さんとお母さんがおるみたい」 「うん……そやね、ねぇ、あーちゃん」  はよ、元気になって。家、帰ろう?  あーちゃんの耳許でぼそぼそと言った言葉に、あーちゃんはまた笑った。  面会時間を終えて、家までの道程をぼんやり考えながら歩いていた。  河原沿いの道には赤い彼岸花が咲き乱れ、なんか悲しいなぁと思いながらそれを視界から外した。  こういった景色は向こうにいた時と変わらないように感じる。ひとつ違いを挙げるなら、その景色の後ろにこんもりとした緑色のボタ山がないことくらいだった。  両親が事故死して、あーちゃんのいるこの関東にひとり、来なきゃいけなかったときには、都会に行くなんて嫌だと思っていた。  でも此処は思っていた大都会でもなく、住んでみると似たようなところを沢山見つけることが出来た。それに家では方言を封印することもなかったから、気を楽にして暮らしていけそうだと思った矢先の今日だった。  ……父さんと母さんが事故に遭った時、俺は家で独り、二人が帰ってくるのを待っていた。事故が起きて、警察から電話があったときのあの感覚は忘れられない。世界が色を無くすとはまさにああいうことを指すんだって。  学校に兄ちゃんから電話が掛かってきた時は、また世界から色が消えるのか? と思って、震えが止まらなかった。  あんな経験をするのはもう嫌だ。自分の目の、手の届かないところで大切な人がいなくなるなんて。  変化、それが今の自分にとって一番怖いものだった。
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