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翌日から俺は毎日あーちゃんの見舞いに行った。入院期間は大事を取って二週間だった。
ある日、いつものように学校帰りに病院に寄ると、あーちゃんはベッドで眠っていた。その頬にはつたった涙の跡。何か嫌な夢でも見たのだろうか。
息子が死んで、息子の嫁が死んで、残った孫の俺。
……俺に出来ることは何かないのだろうか。
相も変わらず河原沿いを、思考の海に耽りながら歩く。
薄はさらさらと風に揺れ、秋めいた淡い景色の色合いを作っていた。ぼんやりとそれを眺めながら考えていた。
俺があーちゃんに出来ること。思い出を共有出来る何かはないか?
昔の記憶を掘り起こす作業を始めた。父さんと母さんが亡くなる以前、いや、もっともっと昔……。
……そういえば、小さいときには年に一度か二度、あーちゃんは福岡に遊びに来ていた。俺たち家族に会いに来てくれていた。
あの時よく遊んだのが……
『あーちゃん、……何なん? これ』
『これね、これはお手玉っち言うとよ』
『どうやって遊ぶと?』
『こげんして遊ぶんよー』
歌に合わせて宙を舞う色とりどりのお手玉。それはひどく綺麗で、セピア色の思い出の中で今も色鮮やかに輝いていた。
その後俺はあーちゃんに教わりながらなんとか四つまで出来るようになったんだっけ。
……そうだ、やっぱりお手玉がいい。
その当時あーちゃんが俺にくれたお手玉は、俺がこっちに引っ越すときに探したが見つからなかった。だからあのときのお手玉はもうない。けれど。
「ないんなら作れば済む話やき」
いい考えだと思った。お手玉を俺が作ってあーちゃんの病室に持っていく。多分、喜んでくれるはずだ。
……しかし、お手玉はどうやって作ればいいのだろう。中に丸いものが入っていたような。
「……小豆? えっと……いや、」
じゅずだま。そうだ、数珠玉がいい。今は秋だ。多分そこら辺を探せば数珠玉が生っているはず。
薄を分け入って数珠玉が生っていないかと探してみた。地元なら河原沿いにも生っていたのだが、どうしても見つからない。
どうしたものかと腰を上げて辺りを見回してみた。
「……は?」
気のせいかと思ったが、目を凝らしてもう一度見てみるとそれは確かに此処らで有名な進学校の制服だった。
有名進学校の女子高生がこんなところで一体何を探しているんだ?
興味があって少し近付いてみると……
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