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「ん? こんにちは」
「は、はいこんにちは」
その人が振り返って挨拶してきた。手には……かご?
「何か探してるの?」
むしろこっちが訊きたい、と思いつつも正直に答えた。
「数珠玉が生ってないかなぁと思って探しているんですが」
「あー! それならそっちにあるよ」
そう言って彼女は俺のいるまだ先、左側を指差した。本当だ。数珠玉が沢山生っている。
「あ、ありがとうございます」
「お手玉でも作るんでしょ?」
「……そうです」
常に何か言葉を先読みされている気がしてならなかったが、正直に答えた。
「やっぱりそうなんだ。じゃあ数珠玉は一日くらい乾かした方がいいと思うよ」
「わざわざすみません。あの……あなたは何を探しているんですか?」
「私? 私は、露草を探してる」
そう言いながらかごの中身を見せてくれた。かごの中にはたくさんの青い花弁。
「……綺麗ですね」
「うん。お互い採取を頑張りましょう、拓海くん」
「え」
「あれ? ご近所の拓海くんでしょ? あのおばあちゃんのところに来た」
思わず笑ってしまった。此処には健在なんだなぁ、隣組的なご近所の付き合い。俺はまだご近所のこと全然知らなかったのにな。
「はい、そうです」
「おばあちゃん若いよね」
「そう、ですねぇ。良かったら今度会ったときには『あーちゃん』って呼んであげてください。おばあちゃんって言われるの嫌いらしいんで」
草を分け入って数珠玉の生る方角に向かいながら俺は言った。
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