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「そっか、わかったー」
少し声量が上がったみたいだった。きっとこれだと向こうも笑っているんだろうな。
「あ、少年少年」
「はい?」
鞄の中にあったコンビニの袋に取った数珠玉を無造作に放り込んでいたら、再び彼女の声がした。
「お手玉作るのにいるハギレなら、商店街の呉服屋さんとこがいいと思うよー」
「……わっかりましたー」
面白い。この人親切だし面白いなぁ。他にも手芸の本を借りるなら図書館に行くべきなどなどアドバイスをもらった。
「いろいろとありがとうございました!」
「いいえ、じゃあまたね」
またね。その響きがすごく嬉しかった。そのまま俺は商店街と図書館に向かった。
家に帰ってから早速お手玉作りを始めた。縫い方の分からない部分は姉ちゃんに教わりながらも全部自分の手で。
翌日帰ってからは乾かしていた数珠玉を縫った袋に入れていく作業をした。じゃらじゃら。そして完成したのはちょっといびつな形のお手玉が五つ。
でも、それはあの頃、宙を舞っていたお手玉と同じくらい、綺麗な色をしていた。
動きにくい学ランを纏って、またひたすら走っている。
じゃらじゃら。今日の鞄は普段なら考えられない音を立てている。今日は放課後の学級会議が長引いたんだ。そのせいで面会時間がいつもより短い!
でも、早くあーちゃんに見てもらいたいと思うわけで。
俄然速度を上げて走った。
息が徐々に上がっていく。喉の水分が飛ばされていく。
空気を思い切り吸い込むと甘い香りがした。金木犀だ。そしてちらりと見えた枯れかけの彼岸花。確実に季節は動いている。
(季節が移りゆくように、不変なものなど何ひとつとしてない)
そんな考えが浮かんだが、病院が見えたことでそれは瞬時に消えてしまった。とにかく急げ、急げっ!
「あーちゃん! あーちゃんいいもん持ってきたばいっ!」
思い出の中の思い出を甦らせる
白黒の世界を色付けていく
日々の時間を駆け抜けて
移り変わる 全てを見つめる
走れ走れ もっと速く
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