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河井創(彼女いない歴=年齢の高校一年生)の部屋は普通の男子寮の一室であり、
その部屋の中に男以外の性別を持った者が入ったことは、寮母と家族を除き、過去一度も無かった。
だが、
今、俺には目には、女の子(もちろん俺は家族や寮母を女の子扱いするような奇天烈な神経は持ち合わせていない)が居るようにしか見えなかった。
「……」
「……」
長い、長い沈黙。
意図した沈黙ではなかった。
俺は、先ほどまで目の前に居たものとは似ても似つかないその姿に、言葉を失っていたのだ。
そう、それは相手からしてみれば、頭から足元まで覆っていた『黒衣』と、顔を隠していた『髑髏』の面を外しただけなのだろう。
ただそれだけで目の前にいた『死神』は『少女』に変わったのだ。
「何か言いなさいよ」
長い沈黙を破ったのは少女だった。
発された声は低く掠れたものではなく、
凜とした、しかしどこか幼さを感じさせる響きを持った声だった。
「えっと……、どちら様?」
「それは名を聞いてるの?それとも私の正体に対する問い?……まあ、両方答えればいっか。
私は死神見習いの叶。ちなみに人間と違って名前と苗字が別れていたりはしてない、これが正式な私の名前」
俺の戸惑い混じりの質問とは裏腹に、少女は淡々とそう答えた。
「死神見習い?」
その言葉の中、ふと疑問に思った場所を俺は無意識の内に口に出していた。
「ええ、私はまだ死神になる試験をしている最中なの。だから死神見習い、他に質問ある?」
俺の無意識の質問に答えてくれる彼女。
どうやら彼女は俺が現状を把握できていないことや、いろいろと聞きたいことがあるだろうと見越してくれたのだろう。
その言葉に甘え、どんどん疑問に思ったことを言うことにした。
そうすることが、この意味不明な状況から抜け出す最短の方法だろう。
「えっと、んじゃまず、さっき言った死の宣告って?」
まずはこれだろう。
嫌な予感がビンビンするが、殺すだけが目的ならさっさと首を切ればいいし、わざわざ少女の姿になる(って言い方はおかしい気もするが)必要は無いはずだ。
要約すれば『もしかして、そんなにヤバイ状況じゃないんじゃないか』と言う期待を込めた質問だったりするのだが――
「アンタを殺すことよ」
その期待はばっさりと切り捨てられた。
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