地下牢の飛竜士

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男の夜の友の詳細を方々に吹いて回るとは、男子の風上にもおけぬ奴め。 「なら俺はお前が騎士好きマニア属性であることを、ナコルに話すか」 『………』 「おい、どうした?」 おかしい、何時もなら嫌みや皮肉の一言でも帰って来る筈なのだが。 『世の中には…』 「あ?」 『世の中には、既に手遅れなこともあるのだ…』 「あっ……」 察した、察してしまった。 己の好物、それも特殊な分類の物を異性に知られた時の反応はどうだろうか。 十中八九、冷たい目で見つめられたに違いない。 「……すまん」 『……いや、仕事の話に戻ろう』 見たくない現実から目をそらすように、仕事の会話に戻る。 銀と長続きしている理由は、変なところで共感しあってしまうからであろうか。 「足は?コボルトの巣穴まで駆けつけられるか?」 『風雅はまだ修理中だ。 大方騒ぎのせいで、地上運行の交通機関も停止したであろう』 「そんじゃバックアップに専念してくれ。 敵の詳細が分かると嬉しい」 『指図されるのはシャクだが、現状はそれが最適だろうな。 場所はどこだ?』 『コボルトの巣穴周辺だそうだ。 既にリスムやコボルト、それに研究所からも報酬が出されているから調べ出すのは容易だろう」 いっそ端末に検索機能がついていたら良いのだが、まだそこまで時代が追いつてはいない。 「仕事の時間だ」 クラニアに跨り装備を確認。 背中には重量感のあるハルバードと、もう一本の布に包んだ得物を背負う。 「死なない程度に頑張るか」 風の無い地下に竜が舞う。 目指すは戦場、クソと味噌がごった返す殺しの場だ。 ヤツバが部屋を出て数時間、クレイシアは造り物の瞼を閉じる。 忠告はしてやった、生憎自分の語り口調で忠告になったかどうかは定かではないが。 「盤面の死にたがりは、計画を始めましたよ?」 独り言は誰にも届かず、部屋の暗闇に落ちていく。 「ヤツバさん、貴方は駒になってはいけない」 まだ目の前に誰かがいるように語り、やや億劫そうに立ち上がり小さな窓に近づく。 窓の外は黒い岩壁、景色もへったくれもなかった。 「さぁ死にたがりさん。 貴女手筋、見せてくださいな」
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