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人が踏み込むことなく自然なままに構築され、鬱蒼とした緑と茶色が広がっていた。
針葉樹に広葉樹、知識としてある雑草や薬草から見たことのない色彩の毒々しい茸等様々。
草木と土の香りが少々湿った空気中に漂い、葉や枝の隙間から柔らかく温かな陽光が差し込まれる。
優しく撫でるような風が葉を揺らして音を流す、小鳥の囀りもささやかに耳をくすぐっていく。
整備がされずに節操無く伸びる木の根や隆起した地面が凹凸を作り、虫や小動物の住処を彼方此方に形作る。
道などない、あるとすれば獣が体躯を以って踏み固め、枝葉を押し退け強引に開かれた獣道が関の山。
それが、我が前に展開する大森林と呼ぶべき土地。
“俺の知識では人の活気溢れる大都会であったはず”の、未踏の領域だった。
そんな森林の中に立つ俺は、振り向いて後ろへ体の正面を向ける。
そこに広がるは先の森林を切り開き、馴らされ平らになった土の床。
その向こう、灰の色を持つ断崖絶壁、鶴嘴を用いた一撃によりようやく表面を削れるほど硬質な岩壁だ。
さらにその岩壁の下、土と石の境界線を引くように洞穴が口を開けていた。
目測で横幅一間と一尺、縦に二間弱はある穴の先は陽の光が差さぬために暗闇を覗かせる。
地震、若しくは土地が海抜する遥か以前にくり抜かれたのか、自然発生にしては恐ろしく頑丈にして快適な内部になるであろう造形。
「……ふむ」
頑丈であり、快適であり、容易に人の目が触れられぬ位置にある洞窟。
暗闇の濃さから中も恐らく広いだろう、物資もいくらか入るはずだ。
隠れ家として、これほど適した環境もそうはあるまい。
後押しとしては、土の床にある小さな、それも大量の足跡が決定的。
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