2人が本棚に入れています
本棚に追加
鍾乳洞。
長く入りくんだ道の先。
茜に染まる裂け目へ降る風は、
濁った泉を波立たせる。
響くはずの彼の寝息も、
頭上の声にかきけされる。
多くの、死に。
昔、この上で戦いがあった。
単なる領地争いだ。
ただ、どちらの国も多くの犠牲者をだした。
それ以来ここに攻め込む国はなくなり、こちらも戦争を避けることで国は落ち着いた。
大地に染み込んだ血は、断末魔を記憶していた。
惨劇を人々の記憶から消さないように。
だが、平和とは従属だ。
誰もが満足してはいられない。
あるものが水面を叩けば波紋が瞬く間に拡がる。
だから、この世に安住の地など在りはしない。
泉は透き通り、鎮まり、
寝息はやんだ━━━━━。
最初のコメントを投稿しよう!