我より強き者

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「巴、俺には許嫁がいる。巴は、かわいい妹じゃ。解ってくれ。」 「そんなこと知っております。ただ、巴は義仲様のそばにいると決めました。ここよりいくとこなどありません。」  巴様は、か細き声でいうと、義仲様よりそっと離れられました。そして、袂にもってあった懐剣を素早く首筋に当てたられました。 「なにをするッ。」 「巴は、義仲様のそば以外いるところがありません。」  このときばかりは、私もあわてました。巴様は、自害しようとしていたのです。  巴様が、懐剣をのどに突き立てたとき、私は思わず、目を背けてしまいました。 「なんということを・・・義仲様ッ。」  その声にあわてて目を開けると、巴様の懐剣をしっかりと握りしめている義仲様が見えました。そして、懐剣を握りしめてる手から血が流れており、切っ先から畳に落ちておりました。 「な、なんといことを、す、すぐに薬師を。」 「さわぐなッ。たしたことはない。湖東血止めだけ持ってこい。」  私は、転げるように、血止めを取りに走りました。  義仲様は、優しく巴様から、懐剣を取り上げられました。 「申し訳ありません、私はなんとういうことを・・・。どうしたら、どうしたら。」 クスッ。義仲様は笑っておいででした。 泣きながら必死で義仲様の傷をふく巴様を抱きしめられて、 「かなわぬ。巴には降参じゃ。その命、今日より我が物。決して、俺がいいと言うまで死んではならんぞ。」 「はい。」  その夜、血止めも、薬師もお二人には必要ございませんでした。
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