我より強き者

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「もう、今回はゆるされんぞッ。」  私は中原兼遠様の娘、巴様にお仕えする湖東(ことう)と申 します。目の前でまるで赤鬼のように怒っているのが、巴様の 長兄の兼光様。 「兄者、巴も悪気があったわけではない。今回は多めにみてく はくれんか?」  私の横で、青鬼のように青くなって、必死で赤鬼を押さえて るのが次兄の兼平様。  二人とも、巴様にはとても優しい良い兄者なのですが、この 頃は、巴様にとってちょっとうるさい存在でありました。確か に巴様も14になって、そろそろ良い縁談をと言われるのもわ かるのですが、誰でも良いわけではないのです。 「今回は、があるか、何度目じゃ?もうがまんの限界じゃ。今 度ばかりは、巴の言う通りにしたではないか。小室光兼は家臣 一の剣の使い手じゃ。」 「私に負けたではありませんか。」  兼光様が、ぎょっした表情で巴様を見る。 「勝ってしまったのか?巴は・・・。」 「あのような剣が家臣一だとすると、先が思いやられます。プ イ」 「巴ッ。」  幼い頃から、兄様達と一緒に文武両道に鍛え抜かれた巴様に 適うものなど、なかなかに家臣の中にはおられません。素質も あったのでしょう、この頃の巴様には兼光様でも時折敵わない 時があるほどでした。  父のやり方とはいえ、娘に武道など必要なかったのだ。同じ 娘でも海野の山吹姫のように育てるべきではなかったのだろう か?  兼光様は、巴様の婿選びにほとほとお疲れでした。巴様の言 う、自分より強い男というのが、身分もつりあうような中には もう見あたらなかったのです。 「あっ野掛けの時ですので、失礼。」 「あっ、オイ、巴・・・。」  巴様は少年のように、庭先に飛びでると、あっという間にか けていかれました。 「ふう~やれやれ・・・。どうにかならんかぁ兼平。」 「父君も、巴の結婚については、兄者に任されてますから・・ ・。」 「もう、わしもお手上げじゃ。最近ではおまえでさえ敵わぬ巴 の剣に勝てる者など、そうそういるものか。今日が最後の相手 と思っていたのに、あっさり負けおって。」 「このままだと、海野の叔父の息子のように出家するものもで るかもしれませんな。」 「のんきなこと言うな。兼平。どこかに心当たりはいないのか ?もうわしのまわりではだれもおらぬ・・・。」 「とんでもない、兄者の家臣に勝てぬもの、わが家臣では無理 です。」
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