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「痛い。湖東もう少し優しく塗ってくれないか。」
「も、申し訳ありません、義仲様。こともあろうに姫様があの
ようなことするなど思ってもいなかったものですから。」
義仲様の腕には、しっかりと巴様の歯形がついていました。
巴様は剣で向かっていったもののこともなげにかわされ、何度
かかわされたのちに、手の甲を打たれ剣を奪われたのでした。
それでも、勝負はついてないと、義仲様に飛びついていったも
のの、かるく尻餅をつかされて、とうとう抱きかかえられてし
まわれました。義仲様は、その細身で有りながら、巴様を肩に
担ぐと、
「この勝負、ここまでじゃ。今日は姫の尻餅記念じゃ、みなで
餅やいて祝おうぞ。我はこのじゃじゃ馬を狩衣から天女の衣へ
と着替えにつれてまいってくるほどに。」
その声とともに、歓声があがりました。用意酒やつまみが運ば
れてきました。
巴様は、義仲様に担がれたままで、真っ赤になって暴れてお
いででした。
「おろせ~~、このような辱めゆるさぬ~、おろせ~。」
「このじゃじゃ馬娘おとなしゅうしとけ、このまま屋敷につれ
ていく、今後巴は狩衣禁止じゃ。大将に勝負をいどんじゃ罰じ
ゃ。」ペンペン
義仲様は、巴様のお尻をおどけて軽くたたきました。周りか
らは歓声が上がりましたが巴様はもう爆発寸前でございました
。
お屋敷につかれた義仲様は、巴様をおろそうと手をあげられ
たきに、
「大馬鹿義仲ッ。」
「アッ巴。」
悔しさのあまりでありましょう、巴様はおろそうと伸ばした
義仲様の腕に思いっきりかみつかれたのでありました。巴様は
うずくまる義仲様の腕から離れるとそのまま奥に駈けていかれ
てしまわれました。
「本当に申し訳ございません。幼きころより負けるということ
が大嫌いな方ですので。」
「湖東が気にすることはない。巴のことはおれもよう解ってお
る。今日は、さすがにやりすぎたかもしれん。さすがに噛まれ
ると痛いぞ。アハハハ。」
そう、幼いころから一緒に育った義仲様も巴様の性格はよく
ご存じでした。なのに、どうしてあのようなことをしたのでし
ょうか?そのときの私にはわかりませんでした。
「もう、俺はよい。宴に加わってくるから、湖東は巴を姫らし
くして、つれてこい。嫌といってもつれてこい、よいな。」
「は、はい。貸しこまりましてございます。」
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