我より強き者

8/13
前へ
/13ページ
次へ
「痛い。湖東もう少し優しく塗ってくれないか。」 「も、申し訳ありません、義仲様。こともあろうに姫様があの ようなことするなど思ってもいなかったものですから。」  義仲様の腕には、しっかりと巴様の歯形がついていました。 巴様は剣で向かっていったもののこともなげにかわされ、何度 かかわされたのちに、手の甲を打たれ剣を奪われたのでした。 それでも、勝負はついてないと、義仲様に飛びついていったも のの、かるく尻餅をつかされて、とうとう抱きかかえられてし まわれました。義仲様は、その細身で有りながら、巴様を肩に 担ぐと、 「この勝負、ここまでじゃ。今日は姫の尻餅記念じゃ、みなで 餅やいて祝おうぞ。我はこのじゃじゃ馬を狩衣から天女の衣へ と着替えにつれてまいってくるほどに。」 その声とともに、歓声があがりました。用意酒やつまみが運ば れてきました。  巴様は、義仲様に担がれたままで、真っ赤になって暴れてお いででした。 「おろせ~~、このような辱めゆるさぬ~、おろせ~。」 「このじゃじゃ馬娘おとなしゅうしとけ、このまま屋敷につれ ていく、今後巴は狩衣禁止じゃ。大将に勝負をいどんじゃ罰じ ゃ。」ペンペン  義仲様は、巴様のお尻をおどけて軽くたたきました。周りか らは歓声が上がりましたが巴様はもう爆発寸前でございました 。  お屋敷につかれた義仲様は、巴様をおろそうと手をあげられ たきに、 「大馬鹿義仲ッ。」 「アッ巴。」  悔しさのあまりでありましょう、巴様はおろそうと伸ばした 義仲様の腕に思いっきりかみつかれたのでありました。巴様は うずくまる義仲様の腕から離れるとそのまま奥に駈けていかれ てしまわれました。 「本当に申し訳ございません。幼きころより負けるということ が大嫌いな方ですので。」 「湖東が気にすることはない。巴のことはおれもよう解ってお る。今日は、さすがにやりすぎたかもしれん。さすがに噛まれ ると痛いぞ。アハハハ。」  そう、幼いころから一緒に育った義仲様も巴様の性格はよく ご存じでした。なのに、どうしてあのようなことをしたのでし ょうか?そのときの私にはわかりませんでした。 「もう、俺はよい。宴に加わってくるから、湖東は巴を姫らし くして、つれてこい。嫌といってもつれてこい、よいな。」 「は、はい。貸しこまりましてございます。」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加