小さな英雄

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 ここしばらくは夫婦の会話も縁起でもない話ばかりになって、顔を合わせればため息ばかり吐いている。  この小さな島にも一応、領主はいるのだが、誰が何度訴えても、何を恐れてか、一向に動いてくれる気配がない。  高い壁に囲まれ、領主の近親者にでも被害が出なければ、恐らくこのまま領民の生活などに関わる気はないのだろう。  今年もこんな状態のまま新年を迎えるしかないのか……  アルベルトは我が家でも一番暖かい場所を知っていて、二階の窓の桟の上で身体を丸めて眠っている。  太陽が西の空に傾きだした頃、アルベルトは耳をピンと立てて、人の背丈ほどもある壁をひょいと飛び越えると、どこかに消えてしまった。  可哀想に。  ここのところ彼にも十分なエサを与えていない。  大方、漁港の魚のおこぼれでも失敬してくるのだろうと、私は申し訳ない気持ちで、彼の背中を見送った。
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