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ぴたりと止まった一真の唇が私の素肌からゆっくり離れた。
身体に掛かっていた彼の重力も軽くなっていく。
「さ……おり」
ずっと無だった彼の表情に驚きが浮かび上がった理由は、私が泣き出したから。
「……ご、ごめ……」
激しく動揺する一真はあたふたしながら力無く謝る。
私が涙を流す所を見たのは初めてだから戸惑ってるんだろう。
私は人前では殆ど泣かない。
この間桜さんの前で泣いた時が恭平くんのお通夜で泣いた時以来で、一真の前で泣いた事は無い。
小さい頃から家族の前でも滅多に泣かず、泣くとしたら人に見られない場所で。
“涙は女の武器”なんていう言葉と、男系一族の中で育った環境がそうさせた。
涙を見せた位で降伏されるよりも、言論に降伏して貰った方がよっぽど納得がいく。
要するに男勝りな性格なのだ。
なのに、よりによって彼の前で不覚にも泣いてしまった。
その悔しさも相俟って更に涙が溢れ、解放された両手で顔を覆いながらベットの上で横向きになって丸まる。
「……今の一真が好きなのは私じゃなくて、ヤる事なんだよ……」
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