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「分かった。じゃあ宜しくね」
私も携帯電話を閉じて通学鞄のサイドポケットに戻した。
そして柊平くんに背いて自宅の敷地内に入り、駐車してある父の車の横を通って玄関のドアを開ける。
玄関の中に入る前に今一度振り返って柊平くんの姿を一瞥してみると、彼は自宅の真ん前まで移動していた。
スラックスのポケットに両手を突っ込んだまま、こっち側に背中を向けて立っている。
緊張感が表れたその後ろ姿が妙に可笑しくてクスッと笑い、兄を柊平くんの元へ行かせる為に玄関に入った。
普段みたいに一旦リビングに顔を出さずにそのまま階段を昇り、2階の階段手前側の兄の部屋を目指す。
もう21時だし、高3で国公立大学進学希望の受験生である兄は自室で勉強中の筈。
「お兄ちゃん」
兄の部屋のドアをノックしてからドアを開けると、やっぱり兄は机で勉強している最中だった。
「何」
兄は私に顔も視線も向ける事無く、つらつらノートにシャープペンの芯を走らせがてらに低い声でお返事。
柊平くんが謝りに来たなんて知ったら絶対にそのポーカーフェイスは崩れる。
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