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「お兄ちゃん。家の前にお客さん来てるから行って。今直ぐ」
私は部屋の中に入って兄の元へ行き、机の横に立て掛けてある松葉杖を取った。
「は?客?」
兄はシャープペンを動かす右手を止め、やっと顔を上げて私に視線を向ける。
「そう。お兄ちゃんに会いに来てるの。ほら、早く行って」
敢えて誰が来ているのか明かさず、兄の左側の二の腕を上へ軽く引っ張って椅子から立たせようとした。
「誰だよ?」
椅子から腰を上げて右脚一本で床に立つ兄は、両手を机に着けて身体を支えながら客の正体を問う。
柊平くんだと今伝えた方がいいか、玄関のドアを開けるまで知らない方がいいか。
兄の驚愕する顔も見たいけど、直接会うまで知らずに劇的な仲直りをする方が兄は感動しそう。
それに、私にはもう一つ見てみたい兄の表情がある。
表情というか、反応というか。
「目が大きくってくりくりしてる可愛い子」
悪戯な微笑を浮かべながら兄の耳元に顔を近付け、意味深さを演出するべく囁いた。
それに対する兄の反応は、私が求めていた以上の表情。
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