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「謙司を苦しめたのはあたしなんだよ?あたしから好きになって告白してそれまでの関係壊しちゃったんじゃん。悪いのは謙司じゃなくてあたしなんだってば」
感傷的な微笑で話す彩芽のその顔は、知り合ってから初めて見る大人びた表情だった。
ずっと笑顔だった謙司さんも流石に真顔になり、食い入る様に彩芽を見つめている。
「恋愛感情は消えたけど、謙司の事は大好きなままだからさ。謙司と恋愛したから今のあたしが在るだもん」
私は大体を理解した。
彩芽は謙司さんに冷めたから別れたのではなく、きっと謙司さんの為に別れたんだ。
慎吾くんに交際宣言が出来ない謙司さんに対して多少は不満があったかもしれないけれど、それも自分のせいでもあると。
謙司さんが好きだからこそ別れを選んで、そして今でも良い関係を築けている。
私は彩芽の顔から謙司さんの顔へ視線を滑らせ、彩芽の言葉に対する反応を窺ってみた。
彼は無言で目線を彩芽から外して顔を正面へ戻し、その伏せた瞳をテーブルの上辺りに向けている。
結果的に振られる事になった謙司さんは、彩芽みたいに気持ちを切り替えられているのだろうか。
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