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期待と緊張感で仲直りの時を待つ中、やっとこの窓のカーテンとの2㎝の隙間から兄の後ろ姿が見えた。
ゆっくりと松葉杖を動かして父の車の横を通り、ゆっくりと柊平くんに近付いて行く兄の背中。
「──」
大きめな柊平くんの声は此処まで届くけど、何を言っているのかまでは良く聞き取れない。
「──」
もどかしいけれど、自宅の敷地ギリギリに立った兄と柊平くんの二人が向き合う姿を見ていれば、大体の状況は分かる。
「──」
瞬きすら惜しくなる程じっと見守っていた時、柊平くんが右腕の二の腕の内側や手首で顔を拭った。
柊平くんのその仕草、以前にも見た事がある。
「──」
涙を拭う仕草。
柊平くんは今、泣いてる。
涙を右腕で拭いながら、兄に何かを言っている。
彼は泣く事を恥ずかしい事だとは思わない人だった。
怒りたければ即座に怒るし、泣きたければ泣く。
彼の高いプライドは自尊心から来るもので、“~する事は恥ずかしい事”という概念は余り持たない人だ。
子供みたいに正直で、純粋な所は高校生になっても変わってなかった。
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