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「え、何も聞いてないけど?彩芽が何か知ってるの?どうして彩芽が知ってるの?」
私はきょとんとした顔を作って兄を見つめ、何も知りませんという演技をした。
「しまった」という反応を表情に出して俯いた兄は、私の演技を信じて騙されている模様。
腹黒で計算高い私は兄のその天然な純情さがちょっと眩しい。
「へえー?じゃあ彩芽に訊いちゃおうかなー」
「訊かなくていい。訊くな」
「嘘だよ。彩芽だって教えてくれないでしょ。お兄ちゃんの良き理解者みたいだし」
ごめんなさい、本当はもう訊いちゃった。
彩芽も病室に一泊してずっと兄の傍に居た事を。
整形外科病院の方も彩芽が付き添って一緒に行った事も。
左足が解放された後は近場のカラオケ店で3時間、そしてハンバーグレストランでディナー、というデート風の一日を過ごした事も。
私と兄は互いに前を向いたまま目を合わせず、不思議な空気感の中で並んで座っていた。
私の横に在るリビングの窓を覆うカーテン生地から透ける光、全開の窓の奥から聞こえる両親の話し声が、私と兄の間に流れる堅苦しい空気を和らげている。
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