SAORI 13

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リビングを出た私は階段を昇り、2階の自分の部屋の手前側に在る兄の部屋のドアをノックした。 話をするなら、弟がお風呂に入っている今の内。 ドアをノックした所で兄はいつも返事をしないので、勝手にドアを開けて入室してドアを閉めた。 無言で部屋に入って来た私を見る兄は上下グレーのパジャマ姿でベッドに片脚を組んで腰掛けていて、三角巾を外している右腕の手先に左手を添えている。 案の定兄は私から目と顔を露骨に逸らして俯き、肘上から甲までギプス固定されている右腕の手指を左手で軽く揉み始めた。 彩芽の『恥ずかしくて顔を合わせられないんだと思う』という分析が頭に浮かぶ。 「腕吊ってると肩凝るんじゃない?肩揉みしてあげる」 私はバッグを床に置いてから羽織っていたカーディガンを脱ぎ、ベッドに上がると兄の背後に回って両肩に両手で触れた。 言葉でも身体でも拒否反応を示さない兄は、無言でひたすら下を向いたまま右手先を揉み続けている。 彩芽から話を聞かされた私と何か話さなければいけない、という覚悟を決めているんだと思う。
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