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ふと手前側に在る兄の左脚のパジャマの裾から伸びる足首に目を向けると、まだ手術痕が目立っていて痛々しくて、元から細かったのに更に細くなった気がする。
「まだ普通に歩けないみたいだけど、痛くはないの?」
兄の左足首に刻まれた手術痕に右手を伸ばして指先で軽く撫でると、少しびっくりしたのか兄が私を見た。
その顔は直ぐにまた前を向くけれど、私の手を払い除けずに黙って触らせてくれる。
「痛くはない」
「筋力落ちて歩き難いだけって感じ?」
「……てより恐怖心」
「恐怖心?」
「足と頭に痛み染み付いてるから、まだ体重掛けんのちょっと怖いっつぅか」
無表情な横顔で答えた兄の返しは少し意外だった。
兄が自分の中に恐怖心が存在している事を妹に話すなんて、今まであっただろうか。
子供の頃から愚痴を零したり弱音を吐いたりなんてしなかったこの兄が、ちょっとずつ変わって来ている。
きっと彩芽に対してはもっと素直に色々話して色々な自分を見せてるんだろうな。
「そっか。リハビリ頑張って」
私は微笑み、兄から視線を外して前を向いた。
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