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眠れない夜
おじさんはシチューをつくっていた
ランプの灯りだけの夜
おじさんはシチューをつくっていた
私はそれを後ろからながめていた
「眠れないか」
おじさんがシチューをかきまぜたまま尋ねた
「うん」
シチューの匂いが夜に優しくとけていく
ゆったりと長いおじさんの髪は夜みたいな色
ことり。
私の前に、小さな白いお皿に入ったシチューがおかれた。
私の好きなお皿だった。羊が夜の草原を歩いている。
おじさんがうっすら笑った。
「お食べ」
「こんな夜に食べたら太る」
「今夜の君の夢もまざってある」
おじさんがまた少し笑った。なんだか得意げだ。
私の夢がまざっているらしいシチューはランプにてらされほんのりオレンジ色の海だった。
「いただきます」
一口シチューをすすった。
お皿のふちで、羊がほんのりオレンジ色の海に溺れた。
急に、なんだか眠くなる。
瞼をゆっくり下ろす。
最後にランプにてらされたおじさんのやっぱりにんまりした(あれは確か嬉しそうな)顔がみえた。
「…おやすみ」
食物連鎖みたいだ
私は羊を溺れさせ、私はおじさんに溺れた。
私の夢はオレンジ色の海の中、羊と沈んだ。
おじさんは何に、溺れるのだろうか
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