2人が本棚に入れています
本棚に追加
ある晴れた日のことだ。実に清々しい朝だ、なんて柄にもないことを言いたくなるくらいにな。俺は空気を一杯吸って、深呼吸した。
「学校まで時間があるな…」
「ねぇ、お兄ちゃん。」
「んあ?」
妹が俺に声をかける。そんな平和な日常。それが当たり前だった。そんな日常が続くはずだった。
「ほいじゃ、そろそろ学校に行ってくるわ。」
「うん、行ってらっしゃい!」
「遅くならないうちに帰ってくるのよ。」
「わぁってるって。お袋も飯作って待っててくれればいいから。」
俺は心配かけまいと親に言ってやった。
「あ、お兄ちゃん。」
「なんだ?」
「はい、お弁当。」
「おぉ、すまねぇ。」
「できた妹を持ったものだねぇ。」
親がケタケタと笑っている。それに釣られて俺らも笑った。
「あぁ、でも俺もこいつも、立派なお袋の子供さ。」
「えぇ、わかっているわよ。それよりアンタ、時間は大丈夫なのかい?」
「うわっ、やっべ!んじゃ、ホントに行ってきます!」
「気を付けてねー!」
俺は手を振って答えてやる。
「おぅ!」
こんな何もない朝なんて珍しい。逆に何かあるんじゃないか。
そんな気持ちで一杯だった。
―俺は駅に着くと、ベンチに腰かけて電車を待った。俺の高校は別段変わったところのない、進学校だったりする。俺も晴れて合格して、行っているわけだ。
ただ、遠い。とても遠い。片道一時間。比較的大きな駅なので、交通の便には困らないのだが、やはり暇である。
「なんかねーかな…」
なんて呟いていると、他校の生徒が、
「ねぇ、昨日の『探偵日記』見た?」
「見た見た。やっぱり俊くんはかっこいいよね!」
「うんうん!」
「早く続きが気になるなぁ…」
探偵日記とは、俺らの学校でも噂になっている、ケータイ小説が元となった人気の探偵ドラマだ。俊、というイケメン探偵が、数々の謎を解き明かす、という、ごく普通の探偵ドラマで、俺も妹も、そしてお袋、親父までもが探偵の立場として互いの意見を述べあう程、ハマっている。ちなみに、正答率は俺が一番高かったりもするが、決してすべてわかるわけではないことを言っておく。
「いい加減ここまで影響される奴なんて俺らくらいだよな…」
などと思って学校に着いてから、
―この物語は始まる―
最初のコメントを投稿しよう!