クロの災難(前編)

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「…わかりました。でも、期待に添えなくても文句は言いっこなしですよ?」 「んー、まあ、そんときゃそんときや。」 先輩は笑って答えた。 「でも、まあ、おーきにな。」 「いえいえ。先輩も早く戻ってきてくださいね。」 「おぅ、あったりまえや!」 高橋先輩は自分の胸をポンと叩くと、俺に向かって「頑張りや」と声をかけてきた。俺は、先輩の目を見て、 「何を今更。」 と強気で返した。 「その意気なら大丈夫や。さ、はよぅ練習行き。センセも心配しとるやろうから。」 「では、失礼しました。」 俺は保健室を出た。 ―グラウンド。もう何人かの生徒はタイムを計っている。 「あ、黒沢君。」 大石先生は俺にかけよると、 「どうだった?」 と声をかけてきた。 「元気そうでしたよ。」 「そっか、よかった。」 「それで…」 俺はさっきの保健室でのやり取りを先生に話した。 「そっか…頑張ってね。」 「はい。それじゃ、俺は練習してきますね。」 「あ、他のメンバーには私から声をかけておくわ。」 「はい、わかりました。」 俺はその後、いつもより真剣に練習に励むのであった。 ―練習も終わり、帰りの電車に乗った。帰宅中のサラリーマンに埋もれ、50分。そこから家までバスで10分。やはり遠い。 「お、お帰り。」 「あれ、親父。今日は早いじゃん。」 「いやぁ、今日は飲み会誘われてたけど、断ったんだ。」 「あぁ、そういえば今日は美羽の誕生日か。」 美羽、とは妹のことである。一応、父と母の名前も言っておくと、茂と優子である。 「あぁ。ケーキも買いたかったしな。」 「娘には甘いなぁ。ついでに息子にも甘くしてくれよ。」 俺は冗談半分で言った。 「昔はかなりダダ甘だったからな。今はそれも踏まえて厳しくしているわけだ。」 「でも茂さん?健一の誕生日にまた何か企画しているんでしょう?」 「優子!それは秘密にしておいてくれってあれほど…」 「てか毎年だからな、いい加減気づくぜ?」 毎年親父は、俺の誕生日になると、いろいろやらかしてくれる。去年はお袋と一緒に裸で布団の中にいたしな。 「あ、お兄ちゃん、ちょっといい?」 美羽がリビングに顔を出してきた。 「おう、いいけど?」 俺の部屋と美羽の部屋はどちらも二階にあり、隣同士だ。 「先着替えるわ。」 「うん、わかった。」
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