2人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
「…わかりました。でも、期待に添えなくても文句は言いっこなしですよ?」
「んー、まあ、そんときゃそんときや。」
先輩は笑って答えた。
「でも、まあ、おーきにな。」
「いえいえ。先輩も早く戻ってきてくださいね。」
「おぅ、あったりまえや!」
高橋先輩は自分の胸をポンと叩くと、俺に向かって「頑張りや」と声をかけてきた。俺は、先輩の目を見て、
「何を今更。」
と強気で返した。
「その意気なら大丈夫や。さ、はよぅ練習行き。センセも心配しとるやろうから。」
「では、失礼しました。」
俺は保健室を出た。
―グラウンド。もう何人かの生徒はタイムを計っている。
「あ、黒沢君。」
大石先生は俺にかけよると、
「どうだった?」
と声をかけてきた。
「元気そうでしたよ。」
「そっか、よかった。」
「それで…」
俺はさっきの保健室でのやり取りを先生に話した。
「そっか…頑張ってね。」
「はい。それじゃ、俺は練習してきますね。」
「あ、他のメンバーには私から声をかけておくわ。」
「はい、わかりました。」
俺はその後、いつもより真剣に練習に励むのであった。
―練習も終わり、帰りの電車に乗った。帰宅中のサラリーマンに埋もれ、50分。そこから家までバスで10分。やはり遠い。
「お、お帰り。」
「あれ、親父。今日は早いじゃん。」
「いやぁ、今日は飲み会誘われてたけど、断ったんだ。」
「あぁ、そういえば今日は美羽の誕生日か。」
美羽、とは妹のことである。一応、父と母の名前も言っておくと、茂と優子である。
「あぁ。ケーキも買いたかったしな。」
「娘には甘いなぁ。ついでに息子にも甘くしてくれよ。」
俺は冗談半分で言った。
「昔はかなりダダ甘だったからな。今はそれも踏まえて厳しくしているわけだ。」
「でも茂さん?健一の誕生日にまた何か企画しているんでしょう?」
「優子!それは秘密にしておいてくれってあれほど…」
「てか毎年だからな、いい加減気づくぜ?」
毎年親父は、俺の誕生日になると、いろいろやらかしてくれる。去年はお袋と一緒に裸で布団の中にいたしな。
「あ、お兄ちゃん、ちょっといい?」
美羽がリビングに顔を出してきた。
「おう、いいけど?」
俺の部屋と美羽の部屋はどちらも二階にあり、隣同士だ。
「先着替えるわ。」
「うん、わかった。」
最初のコメントを投稿しよう!