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甲殻をライトブラウンのトレンチコートで隠し、煙草に火をつけ俺は新宿にいた。新宿には俺の嫌悪と尊敬が入り混じっている。
靖国通りから脇に入り、更に脇へ、脇へ、5回くらい曲がると新宿のもう一つの顔が見えてくる。
そこには就職率57%なんて数字とは全く無関係な人々が生きている。
新宿の裏路地の雑居ビルは昼間でも日があたらず薄暗い。裏口の鉄の扉にもたれ、モルトウィスキーを瓶から直接口に注ぐ老人、準備中の店の前で煙草を吸うオカマ達。
その準備中の店の中から一人の男が現れ、オカマ達と何か話している。茶色のスリーピースを着た男は背はそれほど高くない。身長170cmの俺より若干低い。
オカマではないようだが、ゲイかもしれないと思った。
男は甘い匂いのする煙草に火をつけ、一息吸い込んだ時、俺と目があった。
煙を吐き出しながら俺に近づいてきたが、俺は無視した。
「待ちなはれ」
俺はドキリとして、止まって振り向いた。
「この通りに来たって事は散歩やないやろ、何しにきたんや」
何しに来たんや。
俺は答えられなかった。
「まぁそんな事やろと思たわ、少し話していかんか、わしはヒロサキ言うもんで、ここでオカマバーをやっとる」
バーの看板には分厚い鉄板に黒を吹き付けて“ⅩⅢ cafe’”と書いてあった。
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