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「え……」
「わるいね……今日はどの部屋もいっぱいなんだよ」
宿屋の女将は心底すまなそうに話す。
「ほら……昨日から皇女様の誕生式典がはじまっただろ。その祭りを楽しもうって人たちがこの町に集まってんのさ。だから、どこの部屋もいっぱいなんだよ」
「そうですか……すみません。ご無理をいって」
「すまないね。もしなんだったら酒場のほうで休むといいよ。野宿より何ぼかましだろ」
「宿がとれそうになかったらそうさせていただきます」
そういって育ちの良さそうな少年はカウンターを離れた。
そのまま宿屋の出口に向かってまっすぐ歩いていく。窓の外はすっかり日が落ち夕闇が広がっていた。
季節は冬。普段であれば街中は家路につく人々もすでになく、シンと静まり返っている時間帯だ。
しかし、町は活気に満ち溢れていた。夜になり祭りも佳境へとはいったのか、人々の熱気が大通りを中心に渦巻いていた。
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