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少年は出口の扉に手をかけ、ゆっくりと開けた。
開いた戸口から思わず首を竦めたくなるような冷たい風がはいってくる。
風は少年の清水のような銀青色の髪を刺すように吹き抜けた。
あまりの冷たさに少年は身を硬くする。すると突然後ろから厚手の外套が掛けられた。
「えっ……?」
驚いて後ろを振り向くとそこには長身の青年が立っていた。
黒檀のような漆黒の長い髪を後ろでゆるく結わい、この下町に程近い宿屋には似つかわしくない上等の服を着ていた。
「あの……」
「失礼。あまりに寒そうな格好をしていたものだから……ついお節介をしてしまった。その格好では冬の夜は厳しい、それを着ていきなさい」
「あの、でも、これは……貴方の外套ではないのですか? 私は見ず知らずの方からこのようなものを受け取るわけには……」
少年はしどろもどろに口を開き、肩に掛けられた外套を青年に返す。
「それに……私は人からほどこしを受けるほど落ちぶれてはいません」
しっかりと意志のこもった口調で話した。返された外套と言葉を聴き青年は一瞬ぽかんとした顔をし、その後くすくすと笑った。
「…………」
少年が無言で自分を睨んでいるのを見て真顔になる。
「これは……大変失礼をした。その……気分を害したのであれば謝ろう。貴方をさげすむつもりは決してなかった。ただ……なぜだか放っておけない気がして……」
そこまで聴くと少年はふっと表情を緩めた。青年が本心から心配してくれたことがわかったからだ。
「いえ、こちらこそ……。ですが、ご心配には及びません。こう見えても実は結構丈夫なんですよ。私……」
少年はにっこりと微笑んだ。それにつられて青年も微笑み、ふと少年の肩にかかった荷物に目が止まる。
「これは……?」
「……? あぁこれですか? 大した物じゃないですよ。ただの竪琴です」
その割には大事そうに抱えている。竪琴に対してさりげなく気を使っていた。
「竪琴……。すると君は吟遊詩人なのか?」
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