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* * *
「さてと……何を弾きましょうか?」
通された部屋につくと少年は手短の椅子に腰掛け竪琴を取り出す。
細部まで美しい文様が施された見事な造りの竪琴だった。
少年が調弦のために幾つかの和音をかき鳴らすと弦楽器特有の澄んだ音色が部屋の中に響いた。
「素晴らしい音色だね、造りにも品がある」
青年は素直な感想を述べ、それに対し少年は一瞬目を伏せた。
「私の家に代々伝わるものなんです」
少し張り詰めた声で一言そう言い放つとそれきり黙ってしまった。
少年の手の中で竪琴は美しい音色を奏でている。
「なにか気に障ることを言ったかな?」
青年は不思議そうに尋ねた。
「いいえ。そんなことはないです。すみません。……なにを弾きましょう?」
少年はにっこりと笑う。さっきまでの表情とはまるで違った。
青年は内心面食らいながらも幾つかの曲名を挙げ、少年はそれらの曲を頭の中で反芻する。
「できるかい?」
青年は難しい顔をしている少年を見て、少し意地悪だったかな――と思った。
彼が取り上げた曲は、どれもかなりの腕前でないと弾きこなせないような、複雑なものだったからだ。
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