69人が本棚に入れています
本棚に追加
青年が素直な感想を述べ、少年はにっこり笑って席を立つと竪琴を注意深くケースに入た。
「ご静聴ありがとうございました。では、私はこれで……」
「あ……ちょっと待ってくれ」
不意に青年は立ち去ろうとした少年を呼び止めた。
「……? まだ何か?」
少年は不思議そうな顔をして振り返る。
「あ……いや……その……」
「……?」
青年はしどろもどろに言葉を続けた。
「君に是非会って欲しい方がいるんだ」
「私に?」
「そう……。そしてその素晴らしい演奏をもう一度して欲しいのだが……」
熱心に願い出る青年に少年はふむ、と考え答える。
「それは、別に……構いませんが……、どなた様ですか?」
少年の質問に青年は薄く笑い目を伏せる。その表情を見て、少年はその相手の身分がかなり高いものだと判断した。
「ここでは、その方について話すのは控えたい。今日はもう遅いので明日、ここに迎えに来る。それまでに考えておいてくれないか? ……それと、忘れ物だ」
青年は少年の手をとり、手の中に竪琴の礼金だと硬貨を滑り込ませた。
少年は手の中を見て驚いた顔をする。
最初のコメントを投稿しよう!