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ザッザッ…
人間達が気分転換として行く居酒屋と居酒屋の間の狭い道。青年が歩いていた。
その青年、シャツ、ズボン、ジャンパー、また髪の色すべてが黒であった。髪はぶっきらぼうに切っていた。
唯一、黒以外の色があると言えば、彼の半面を覆っている、狐を模した白い半面と健康的な肌のみだった。
少なくとも、これだけは言えよう。傍から見れば、とても異色だと言うことを。
しばらくすると、青年は立ち止まった。先はコンクリートで出来た壁だからだろう。
青年は大きなあくびをする。
「くあ~。ったく、人が疲れているのになんで、報告をしなきゃならねえんだよ。」
『組織の決まりだ。やむおえんろう。』
青年の声に、老人のような口調の声が響いた。『聞こえた』のではない。頭の中に響くような低い声だったのだ。
「善(ぜん)はいいよな~。お前は痛みも疲れもなくてよ~。」
青年は普通にその声の主を話しかける。
『愚痴愚痴言わぬと、さっさと行かんか。』
「へいへい。さっさと、行きますよっと。広生寺 天光(こうせいじ てんこう)。」
青年は肩を竦めると、名前を呟いてまた歩み出した。その先はなんと行き止まりである。壁に向かって歩んでいた。このままでは鈍い音を立てることになる。
ズプンッ!
と思われたが、なんと壁は天光と名乗った青年の体を水のように波紋を立てながら受け入れたのだ。青年はそれに驚くこともなく、壁の向こうへと入っていった。
天光を飲み込んだ壁は小さな波紋を立て、真っ平らになった。
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