彼の涙を拭いに来た

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笑ってほしいと思った。 しかし今の彼にそんな事言えなくて、口を噤んでいるしかなかった。 そんな私を見つけた彼は、歪んだ笑みを浮かべた。 私が見たいのはそんな表情じゃない。 「ふられたの知って来たのかよ。いい気味とか思ってんだろ」 彼がぽつりと呟いた。 どうやら私に向けて言ったらしい。 当前か。 立ち入り禁止の屋上に居るのは私と彼だけだ。 「別に思ってないけど」 「嘘つくなよ。本当は笑いに来たんだろ?」 彼と私は旧友だ。 しかし仲はそれ程よくない。 ていうか悪い。 まっすぐな彼と、素直になれない私。 仲良くできる筈なかった。 でも私の目は、何故かいつも彼を追いかけていた。 「泣いているかと思って」 私がそう正直に言えば、静止する彼。 その口を少し開けたままの驚き顔は珍しい。 少し得した気分。 「何だか平気みたいだし、行くね」 私は屋上の扉を開けて中へ戻る。 彼が後ろで慌てたように何かを言っていたが、私はそれを無視して立ち去った。
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